心に残る音

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記憶を呼び覚ます何気ない音がある。
とても不意にそんな音を聞いてしまうこと。

脳には様々な機能があって、必要なものと必要でないものを瞬時に振り分けるような機能があると言う。
見えるものや聞こえるものは沢山あるけれど、必要でないものは見えないし聞こえないんだって。

土曜の昼下がり
思いがけず時間が出来たので、ずっと行ってみたかった minaのファブリックのお店に。

センスの良い生地や雑貨と古いsingerミシンが飾られていた。

昔、オートクチュールの職人だった母に連れられて生地屋さんに入ると

この生地たちはどんなドレスになるんだろうか?とワクワクして 指先で、生地ににそっと触れては
その着心地や、ドレスを着て出かける場所を思い描いてはうっとりとした。

もし母がまだ元気でいてくれたのなら
きっとアトリエに入り浸って、ドレスの作り方を教えてもらったのだろう。

今の私には、(いや本当前からだけど)たっぷりと時間があるのに。
母がいないことが悲しい。

可愛い生地に触れながら
小さなバックやクッションでも作ろうかな?
っていまだに手芸レベルな私。
そんな私を母はどう見るのだろう?

週末でお店は意外に人がいっぱいいて
ガヤガヤとしている中

誰かが注文した記事を測って切る鋏の音がした。
裁ち台に這わせながら生地を切るザクザクと響く鋏の音。

小さな頃から、母のアトリエでちょこんと座って聞いていた音。
仕事の邪魔をしないように、自分の気を消して。
いつか私はデザイナーになるっていいながら、ウェディングドレスの絵を描いていたな。

ザクザク、ザクザク、ザクザク。。。。

多分そんなに大きな音じゃないけれど
私には十分響いてしまう音。

生地屋さんに一緒に行った思い出を通り越して
もっともっと深いところに触れられて

呆然と立ちながら
涙がポロポロこぼれた。

「もう、しっかりしなさい!甘ったれなんだから、あなたはいつになっても、、、」
鋏の音と一緒に母の声がした。

「ちゃんと側で見てるわよ」

弱いとこつくなあ、、、相変わらず、、、ママ。

雑踏の中でも、どこからか自分の名前を呼ぶ声には反応するように
鋏の音は、今の私に必要なメッセージを受け取るには十分なほどに振り返らせるような大きな音に聞こえた。

私にはオートクチュールのドレスを仕立てることは出来ない。
でも一流の職人だった母の魂に見守られている。

香りをブレンドすることは、私にとってドレスを仕立てること。
魂に寸分違わずと、ぴったり合った、世界にたった一つの香りのドレス。

おそらく母から受け継いだ、いちばんの財産。

大切にします。

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