セッションでは、ずらっと並んだアロマのオイルから、直感で3本を選んだ。一つは過去。ひとつは現在。そして一つはこれからのこと。選んだアロマは、確かサンダルウッド、ラベンダー、そしてカモミールだったと思う。それぞれさまざまな産地のものがあり、その土地特有のエネルギーがある。私はカシミール地方のものを手にしていたように思う。
アロマを「聴く」。目を閉じ、ゆっくりと深く呼吸をして、身体の奥までアロマの香りが染みわったるのを感じてゆく。それは、とてもシンプルなことだった(その間、Keikoさんも同じ香りを聴きながらその場に寄り添ってくれている)。そして同時に、とても深淵な体験でもあった。目を閉じてそっと香りに寄り添っているうちに、静かな衝撃がじわじわと身体に染み渡ってくるのだ。
香りは脳に直接働きかける。そしてそれは、言葉が生まれるずっと前の層に語りかけてくる。ゆっくりとした深い呼吸の中で、私は、私自身も知る由がなかった記憶の彼方に誘われていく。
そこは(どうして)とか(どうしたら)という思考が、すっと静かになる世界でもあった。時間の感覚がゆっくりおおらかなものへと変化するかのように、(いま・この瞬間に起きていること)に気づいていくための豊かな余白。
香りを聴きながら思いついたことを言葉にするのを、Keikoさんはじっと受けとめてくれている。どこかに誘導するようなエネルギーはまったくない。ただ「そんな風にしてみてもいいのですよ」という受容のプレゼンスからそこにいるだけ。その中で、私は誰にも邪魔されることなく、同時にあたたかく見守られながら、安心して探求を深めてゆく。
その日、特に印象深かったのはラベンダーだった。香りを聴いた瞬間、それまで眠っていた脳の細胞たちがまるで一斉に目を覚ますような、覚醒に似た感覚があった。(一体何が?!)と、自分でも驚いてしまう。「考える」を遥かに超えた、肉体的な体験のリアル。(もしかしたら私の脳の半分くらいが、それまで休眠状態だったのではないか。働くことをやめてしまっていた部分があったのではないか)。そんな風にさえ思えたほどだ。この香りは、私に何を告げようとしてくれているのだろう。私はそこから、何を受けとろうとしているのだろうか。それはまるで、ヴェールの向こうを覗き込むような神秘的な体験だった。そして同時に、官能的な魅惑のエネルギをももたらしてくれる不思議な魔法のようでもあった。
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セッションを終えて、自分の表情が最初とは随分変わっていることに気づいた。お風呂上がりのような、何かがゆるんでほっとするような感覚(恥ずかしくてお見せできないけれど、実際にKeikoさんとふたりで撮った写真をみると、私が文字通り熱っているのがわかる。風呂上がりスッピンのような顔!)。脳やハートのあたりに確かな余韻がじぃんと残っている。
2日ほど経った頃。再び、自分でも驚くほどの大きな気持ちの揺れが私を襲った。どうしてこんなにこころが乱れるのだろう。成長し、強くなったと思っていた私は嘘だったのだろうか。まさかこんなところに盲点があったなんて。自分がこんなに不安定な存在だとは思っていなかったので、ショックに驚き、動揺もした。今まで蓋をしてきたところを開けてしまったのかもしれない、とも思った。本当は怖くてこわくて見ないようにしてきただけで、弱い私は少しも成長していなかったのではないかと。
けれども、そんな状態が二日くらい続いたあくる朝。目を覚ましてみると、その不安は(ふうっ)と静まりかえっていたのだ。嵐が過ぎた後の、穏やかな朝凪のように。(だって、大丈夫なはずだもの)。そんな無邪気な声が、私の内から聴こえてきた。気づくと、とても楽になっていた。
(怖いことなんてない。体験してみたら、怖くなくなったでしょ?大好きなものといるときの純粋な嬉しい気持ちにチューニングしていれば大丈夫なんだよ)と。思考が追いつく前に、私の全体性がどこかで、そんなメッセージをキャッチしていた。
香りは語りかけてくる。大切なのは、そこに真摯に耳を傾ける姿勢なのではないか。そんなことを感じている。
そこからまた、新たな景色が姿を現わし、何かが動き出してゆく。
Keikoさんが香りとともに導いてくれた旅。それは、お気に入りのホテルに宿泊するような贅沢な時間だ。そして、それはセッションを終えたあともずっと続いている。
実はこの感想を書いている今、また再び、こころを揺さぶる出来事に私は直面している。昨日はその衝動が大きく、残り香をすっと胸に吸い込み、しばし自分を落ち着かせることが必要だった。そうして、私の記憶が -生命の目覚めるような感覚が- 再び私に力を思い起こさせてくれるのを待つ。どうしていいかはわからない。でも、生命に耳を傾けることで、私はより確かに、私のいきる力につながりなおすことができるのだ。
簡単に書くつもりが、つい長い感想になってしまった。Belovedのブレンドができたと伺って、是非ともまたその香りに出逢いにいきたい気持ちがわいている。
何か大切なものを持っている人なら誰でも、この出逢いに触れてほしいなと、私は思う。そう。人生にはまだ出逢ったことのない不思議な領域が、まだまだたくさんあるのだ。
香りを聴く。その体験が日常のものとなったら、どんなだろうと私は思う。(はじめまして。あなたのことを教えてください)。その素直さを頼りに、私は、私に逢いにいくのだ。
私の(素直さ)を自由に居させてくれるセラピスト、Keikoさん。あなたがアロマを大切にする気持ち、その時にあなたから放たれる波動のような力を、私はとても嬉しく有り難く思っています。
なんて、とっても長くなってしまいました。この感想が何かのお役に立つことがあれば嬉しく思います。
敬意を込めて……。
Comaki (2021.2.17)